「今日は練習、ちょっと行きたくない…」という一言は、少年野球の現場で何度も耳にしてきた言葉です。小学生から中学生の時期は、心と体の変化が大きく、どんなに野球が好きな子でも「行きたくない」「今日は休みたい」と感じる日があるのはごく自然なことです。
一方で、「ここで休ませていいのか」「無理にでも連れて行くべきか」と悩む保護者の声も多く、指導者として相談を受ける機会が増えてきました。この記事では、実際に練習に行きたがらない子どもと向き合った保護者の具体的な声かけと、その後の変化をエピソードとともに紹介しながら、「子どもの気持ちに寄り添いつつ、次の一歩につながる関わり方」を整理します。
まず大切なのは、「行きたくない」という言葉の裏側には、いくつかのタイプの理由が隠れているという視点です。単なる甘えに見える日もあれば、実は体力的な限界や人間関係のストレス、自信の喪失など、見えにくいサインが含まれている場合もあります。
理由ごとに適した声かけの方向性が変わるからこそ、「なぜ今、行きたくないのか?」を一緒に探ることがスタートラインになります。
「子どもが壁にぶつかったときの寄り添い方全般については、少年野球で壁にぶつかった子どもを、親はどう支えるか|心が折れそうな時の寄り添い方ガイドの記事もあわせてご覧ください。」
なぜ子どもは「練習に行きたくない」と言うのか
疲れている・体力的にきついケース
平日練習の日は、学校の授業・宿題・他の習い事と重なり、子どもの体力が限界に近づいていることも少なくありません。あるお母さんは、帰宅した息子がランドセルを下ろしたまま床に寝転がり、「今日はもう動きたくない」とつぶやいた姿を見て、「それだけ頑張ってきたんだね」とまず一言ねぎらいの言葉をかけました。
そのうえで、「今日は5分だけユニフォームに着替えてみようか。もしそれでもしんどかったら、そのとき一緒に考えよう」と段階的な提案をしたところ、息子は「じゃあ、とりあえず着替えてみる」と自分から立ち上がり、結果的には最後まで練習に参加できたそうです。
人間関係・自信の問題が隠れているケース
練習や試合でのミス、コーチからの叱責、チームメイトとの関係など、人間関係や自信の問題が「行きたくない」の背景にあるケースも非常に多いです。実際に、筆者のチームにいたある選手は、公式戦でエラーをしたあと強い口調で注意され、それ以来「またミスして怒られるのが怖い」と口には出さないものの、前日から表情が曇るようになりました。
その子の保護者は、「結果がどうであっても、お父さんはいつでも味方だよ」「ミスしても、一緒に考えればいいだけだよ」と繰り返し伝え続けることで、「怒られるかもしれない」という不安より「支えてもらえる」という安心感が少しずつ勝るようになり、再び練習に向かう気持ちを取り戻しました。
単なる“飽き”やその日の“気分”
ときには、「ただ今日はゲームがしたい」「なんとなく面倒」といった、いかにも子どもらしい“気分”が理由のこともあります。あるお母さんは、「今日は行きたくない」と言い張る息子に対して、頭ごなしに否定するのではなく、「今日はお休みでもいいよ。その代わり、家で素振りを20回だけ一緒にやろうか」と「条件付きOK」を提案しました。
すると息子はしばらく考えた後、「それなら練習行ったほうが早いか」と笑いながらグローブを取りに行き、自分で気持ちを切り替えて出発することができたそうです。
親が実践した“効果のあった声かけ実例”集
感情を否定せず、「今日は乗らない日なんだね」と受け止める
多くの保護者に共通して効果的だったと聞くのが、「行きたくない」という言葉をすぐに否定せず、「今日はちょっと気分が乗らない日かな?」と、感情そのものを受け止める声かけです。この一言を挟むことで、子どもは「サボりたい」以外の本音——実は怒られるのが怖い、失敗を思い出すのがつらい、ただ疲れている——といった気持ちを少しずつ言葉にしやすくなります。
「理由も聞かずに叱る」のではなく、「どうしてそう感じているのか」を一緒に探る入口として、まずは感情を肯定する言葉を投げかけてみることが大切です。
「5分だけユニフォームに袖を通してみようか」と小さな一歩を提案
「絶対に行きなさい」と行動のゴールだけを押し付けるのではなく、「まずは5分だけユニフォームを着てみようか」「とりあえずグローブだけバッグに入れてみよう」と、最初の一歩を小さく区切る声かけもよく使われています。
行動目標を「グラウンドに立つこと」から「準備をしてみること」に下げることで、子どもにとっての心理的ハードルが下がり、「ここまでやったから、ついでに行ってみようかな」と自分でスイッチを入れられる可能性が高まります。
「今日は休養日もアリだね」と“休む勇気”を肯定する
毎回のように「行きたくない」と言う場合は別として、明らかに疲労がたまっているときや、心がすり減っていると感じられるときには、「今日は休むのも作戦の一つだね」と伝えることも重要です。あるお父さんは、連戦続きで疲れ切っていた息子に対して、「今日は“戦略的休養日”にしようか。
しっかり休んで、次の試合に備えるのも立派な練習だよ」と声をかけました。その一言で息子は、「休む=逃げる」ではなく、「次につなげるための選択」と受け止めることができ、休んだ翌週には自分から早めに準備をして練習に向かう姿が見られたそうです。
「応援だけでもいいよ」と参加のハードルを下げる
First-Pitchなどの育成サイトでも紹介されているように、「どうしてもプレーする気持ちになれない子」には、「じゃあ今日は応援だけ行ってみる?」という提案が一つの方法になります。「プレーをすること」ではなく、「チームの様子を見に行くこと」や「カバンだけ持ってベンチに座ること」を目標にすることで、子どもは「行くか、行かないか」の二択から解放されます。
実際にグラウンドに着いてみると、雰囲気に引き込まれてアップから参加し始めるケースも少なくなく、「来てみたら、ちょっとやりたくなった」という気持ちの変化を待つ余白を作ることができます。
「今日は〇〇くんも来るよ」と“つながり”をきっかけにする
特に低学年のうちは、「野球そのもの」より「友だちと会えること」が大きなモチベーションになっている子も多くいます。そんなタイプの子には、「今日、〇〇くんも来るって言ってたよ」「この前、一緒にノック受けてた△△くんも楽しみにしてたよ」と、仲の良いチームメイトの存在をさりげなく伝えることが、背中を押すきっかけになります。
「うまくできるかどうか」ではなく、「誰と一緒に過ごすか」に意識を戻してあげることで、プレッシャーが少し軽くなり、グラウンドに向かう気持ちを取り戻せることがあります。
親として心得ておきたい二つの視点
無理やり行かせるより、「理由を一緒に探る」姿勢
「せっかくお金を払っているのに」「一度決めたことは最後までやりなさい」と言いたくなる気持ちは、多くの保護者が抱える本音です。しかし、「とにかく行け」「休んだら置いていくぞ」と強制する関わり方は、一時的に子どもを動かせても、長期的には野球そのものや親への信頼を損ねてしまうリスクがあります。
筆者自身も、かつて「休んだら試合に出られなくなるぞ」と焦って強く言ってしまい、数日間、子どもとほとんど口をきけなくなった経験があります。その後は、「行きたくないと言うのは、何か理由があるはず」と考え、「今日は何が一番しんどい?」「どの場面が嫌だと感じる?」と、一緒に原因を探るスタイルに切り替えたことで、お互いの理解が深まりました。
「親が焦らない」ことも、実は大きなメッセージ
保護者の不安や焦りは、そのまま子どもの心にも伝わります。「このままでは試合に出られない」「周りからどう見られるだろう」といった大人側の心配が強くなるほど、声かけもきつくなりやすく、子どもは「自分より親のメンツのほうが大事なのかな」と感じてしまうこともあります。
逆に、「今は行きたくない気持ちも分かるよ。やりたくなったときは、いつでも応援するからね」と伝えられた子は、「自分のペースを尊重してくれている」と感じ、時間をおいてから自分の意思で再びチャレンジするケースが少なくありません。
「補欠や結果への悩みを前向きに変えるヒントは、20年の少年野球指導で気づいた親子で乗り越えた本物の成長物語の記事も参考になります。」
声かけは“正解探し”ではなく、「その子に合った応援の形」
ここまで紹介してきた声かけの実例は、「これを言えば必ず行ってくれる」という魔法の言葉ではありません。大切なのは、
・感情に共感する「共感型」
・行動を細かく分ける「段階型」
・自分で選ばせる「選択型」
・仲間や関係性を軸にする「つながり型」


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