少年野球の試合帰り、車の後部座席で泣きじゃくる子どもの横顔を見ながら、「この悔しさを、どう成長につなげてあげればいいのか」と頭を抱えた日が何度もありました。長年コーチとしてベンチに立ち、自分の子どもともグラウンドで向き合ってきた中で、「失敗した瞬間の親の一言」が、その後の数か月のやる気を左右する場面を数えきれないほど見てきました。

この記事では、実際に指導現場と家庭で試してきた「試合直後30分の関わり方」と「家に帰ってからの声かけ・環境づくり」を具体的なエピソードとともに紹介し、少年野球で壁にぶつかった子どもを、親がどう支えていけるのかを一緒に考えていきます。
「少年野球を通じて『挑戦する心』がどう育つかを知りたい方は、野球が子どもに教えてくれた挑戦する心とその育て方の記事もあわせてご覧ください。」
挑戦の土台になる「安心感」はどこでつくられるか
「結果よりもあなたが大切」と伝える
小学生の大会で、守備のミスをきっかけにその回だけで4点を失った試合がありました。ベンチに戻ってきたレギュラーの子は、帽子を深くかぶったまま顔を上げられず、試合後のあいさつでも声が出ませんでした。
その日の帰り道、彼のお母さんは具体的なプレーには一切触れず、「最後までベンチから声を出していたの、ちゃんと見てたよ」「あなたがチームにいてくれるだけで心強い」と、存在そのものを認める言葉だけを繰り返しました。
親の失敗談を話してみる
「大人は失敗しない」と思い込んでいる子どもほど、自分のミスを必要以上に重く受け止めてしまいます。そこで、わが家ではあえて夕食の時間に、その日の自分の失敗を一つだけ共有する「今日のへま報告会」を続けています。
たとえば「コーチ会議で配布資料を間違えて持っていってしまった」「バッティング指導の意図が伝わらず、子どもを混乱させてしまった」など、格好のつかない話も隠さずに話すと、子どもは最初は笑いながらも、やがて「じゃあ、そのあとどうしたの?」と自然に立て直し方に興味を向けるようになりました。
試合直後は「アドバイス禁止ゾーン」と割り切る
まずは「気持ちを受け止める」
ベンチで涙をこらえている子どもを見ると、つい「もっとこうすればよかったのに」と技術の話をしたくなりますが、試合直後の30分は「アドバイス禁止ゾーン」と決めてしまうと親も気持ちが楽になります。
ある公式戦で、9回裏に三振に倒れた六年生のキャプテンがいました。帰り際、父親はフォームの話には一切触れず、「あの場面でバッターボックスに立つの、怖くなかったか?」とだけ聞きました。
その問いかけをきっかけに、「正直、手が震えてた」「でも逃げたくなかった」と、子どもから自分の気持ちを語り始めることができました。
質問で気持ちを引き出す
感情が少し落ち着いてきた頃に、親が解説者になってしまうと、子どもは「責められている」と感じて心を閉ざします。そこで意識したいのが、「なぜ?」よりも「どこが?」「どんなふうに?」と具体的に聞く質問です。
たとえば「どの場面が一番悔しかった?」「自分ではどうしたかったと思ってる?」といった問いを投げかけ、答えを途中で遮らずに最後まで聞き切ること。
話し終えたあとで、「そう感じたんだね」と一度だけ要約して返してあげると、子どもは自分の感情を整理しやすくなり、次の練習で自分から動き始めるケースが多く見られます。
「声かけの具体例については、子どもの挑戦を輝かせる言葉の魔法|失敗から立ち上がる力を育む親の声かけ術の記事も参考になります。」
「失敗=ダメ」ではなく「試してみた証拠」に変える
失敗を肯定し、励ます
少年野球の練習でも、「チャレンジしての失敗」と「準備不足の失敗」は分けて扱う必要がありますが、どちらにしても頭ごなしに叱ってしまうと、子どもは「もう新しいことはやめておこう」と守りに入ってしまいます。
ある五年生のピッチャーは、試合で新しく覚えたチェンジアップを何度も投げて打たれ、大量失点につながってしまいました。ベンチに戻るとき、周りの大人が「あんな球、試合で投げるな」と責める空気の中で、監督だけが「よく試したな。次は投げる場面を一緒に考えよう」と声をかけました。
その後の練習で、彼は配球表を自分で作るようになり、中学でエースとして活躍するきっかけになりました。
親ができる環境づくり
家庭でできる一番シンプルな環境づくりは、「結果だけで会話を終わらせない」というルールを決めることです。勝った・負けた、打てた・打てなかったといった結果の話だけで終わると、子どもは「結果が悪いと話したくない」と感じるようになります。
わが家では、試合後の会話を「結果」「自分で気づいたこと」「次に試したいこと」の三つに必ず分けるようにしています。
アウトになった打席でも、「でも前よりファウルが増えたね」「次は初球から振るって言ってたけど、実際どうだった?」と、前進や次のチャレンジに目を向ける問いかけを心がけることで、失敗そのものを「次のアイデアが増えた時間」として受け止められるようになっていきました。

一緒に「次の一手」を考えることで自信を取り戻す
具体的な行動を一緒に考える
少年野球では、試合の翌日がただの「反省会」になってしまうと、子どもの表情がさらに暗くなってしまいます。そこでおすすめなのが、反省とセットで「具体的な一歩だけを一緒に決めるミーティング」を親子で短く行うことです。
たとえば三振が続いている子どもには、「次の一週間は素振りを何回やる?」ではなく、「今日から3日間だけ、夕飯前に10スイングだけ一緒にやってみようか」と期間と量を思い切って小さく区切ります。
達成できたら、「約束守れたね」「自分から声をかけてくれて嬉しかった」と行動そのものを具体的に認めることで、「自分はやればできる」という実感を取り戻しやすくなります。
小さな成功体験を積み重ねる
指導現場で見ていると、試合の結果よりも、日常練習での小さな成功体験をどれだけ積んでいるかが、メンタルの粘り強さに直結していると感じます。ある四年生の内野手には、「今日の練習では、ゴロ捕球のときに一回でも自分から前に出られたら合格」「声出しは、守備位置に走っていくときだけでいい」と、極端にハードルの低い目標を設定しました。
達成できた日は、帰り際に必ず「今日のナイスチャレンジはどれだった?」と振り返りを一緒に行い、小さな一歩を言語化させることで、「できた自分」を自覚させるようにしています。
親自身の「立ち直り方」が子どもの鏡になる
前向きな言葉かけを意識する
子どもは、親が自分にかけてくれる言葉だけでなく、親自身が失敗したときに自分に向けている言葉もよく見ています。コーチとしても親としても痛感するのは、「子どもにだけポジティブな言葉を求めても、家庭全体の空気が変わらない」という現実です。
仕事でのミスや、当番の連絡漏れなど、親が落ち込む出来事があったときに、「最悪だ」「自分はダメだ」とつぶやくのか、「次はこうしよう」と言い直すのか。そうした日常のつぶやきが、子どもにとっての「失敗したときに自分に何と言うか」のモデルになっていきます。
親の切り替えをお手本にする
あるお父さんは、自分が草野球の試合で三振した日、家に帰ってからあえて子どもにその話をしました。「今日さ、最後のチャンスで三振しちゃってさ。でも次は初球から振ろうって決めた」と笑いながら話すと、普段は自分の失敗を話したがらない息子が、「じゃあ、今度一緒に素振りしようよ」と声をかけてきました。
親が完璧な姿を演じるのではなく、「失敗しながらも立ち直る背中」を見せることで、子どもは「失敗してももう一度やってみればいい」という感覚を自然に身につけていきます。少年野球は、大人にとっても自分のチャレンジを見直す良いきっかけになると感じています。
「親が全部決めない」ことで、子どもに考える余白を渡す
自分で目標や解決策を考える経験を
壁にぶつかったときほど、親は「こうしなさい」と指示を出したくなりますが、自分で決めた目標でないと、少しつまずいただけで簡単に投げ出してしまいます。五年生の秋、打撃不振が続いていたある選手に対して、保護者とコーチであえて「こちらから練習メニューを提案しない一週間」をつくったことがあります。
代わりに、「次の試合までに、自分でやることを三つだけ決めてみよう」と宿題を出しました。最初は戸惑っていた彼も、「毎朝の素振り」「学校から帰ってきてのシャドーピッチング」「試合映像を1試合分見る」と自分なりのメニューを考え、実行したことで、次の試合では表情が明らかに変わっていました。
過去のミスより「これからの一歩」に視点を戻す
少年野球の現場では、ミスをしたプレーの「原因探し」に時間をかけすぎて、子どもの表情がどんどん固くなっていく場面をよく見かけます。息子が三振続きで自信をなくしていた時期、最初の頃は動画を見せながらフォームの細かい指摘ばかりしていました。
しかしある日、「今日は過去の話はやめて、次の打席でどういうイメージで振りたいかだけ教えて」と切り替えて聞いてみたところ、「初球は絶対振る」「高めは見逃す」と自分なりのプランを口にするようになりました。
翌週の試合、結果は内野ゴロでしたが、ベンチに戻ってきたときの表情は明らかに変わっていて、「今のは振りにいけたからOK」と自分で振り返る姿に、過去ではなく「これから」に目を向けることの大切さを改めて感じました。
まとめ:少年野球での挫折は、親子で共有できる「成長物語」になる
少年野球のグラウンドでは、エラー、三振、ベンチスタートなど、子どもにとっては「もうやめたい」と感じる出来事が次々と起こります。しかし、その一つひとつを親がどう受け止め、どう言葉にしていくかで、同じ出来事が「つらい記憶」にも「成長物語」にも変わっていきます。


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