20年の少年野球指導で気づいた「親子で乗り越えた本物の成長物語」 ~サポート現場から語る、親と子どものリアルな変化~

私は少年野球の指導に携わって21年になります。その間、数えきれないほどの子どもたちと保護者の姿を間近で見守ってきました。野球というスポーツは、技術の上達や試合での活躍だけでなく、親子の関わり方や心の成長を大きく映し出す場でもあります。

振り返れば、どの時代にも「なかなか上達しない」「試合に出られない」「親子で意見がすれ違う」といった悩みは途切れることがありませんでした。しかし、悩みを抱えながらも親子で話し合い、行動を変え、少しずつ前向きに歩みを進めていく姿を私は数多く見てきました。

この記事では、実際の現場で出会った相談や指導の体験をもとに、親子がどのように変化し、成長していったのかを具体的に紹介します。読んでくださる方にも「悩む時間そのものが成長の第一歩だ」と感じてもらえたら嬉しいです。

試合に出られない悩み――A君と母親の挑戦

「なぜうちの子はベンチなのか?」という相談

ある年、真面目で努力家のA君がいました。練習では誰よりも声を出し、掃除も率先して行う子でしたが、試合になると緊張で力を発揮できず、なかなか出場機会を得られませんでした。母親は「このまま続けて大丈夫でしょうか」と不安そうに相談に来られました。

私は母親と何度も話し合い、A君の良い点と課題を率直に伝えました。母親も「なぜ出さないのか」と不満をぶつけるのではなく、「どうすれば試合に出られるようになるか」と助言を求める姿勢に切り替えました。

家庭では「毎日素振り30回」「朝の挨拶を必ずする」といった小さな目標を親子で設定し、結果よりも努力の過程を褒めるようにしました。1か月もすると、A君は「今日はフライを落とさなかった」と自分から報告するようになり、少しずつ自信を積み重ねていきました。

私は「小さな達成を大げさなくらい喜ぶこと」が親子の距離を縮めると改めて実感しました。

「助言を求める」スタンスの大切さ

このような場合、保護者が「なぜ出さないのか」と不満をぶつけるのではなく、「どこを伸ばせば試合に出られるようになるか」と助言を求める姿勢が大切です。

A君のお母さんには「A君の良いところと、もう少し頑張ってほしいポイント」を率直に伝えました。また、A君自身にも「何を克服すれば出場機会が増えるか」を一緒に考える時間を作りました。

親子で目標設定、少しずつ自信を積み重ねる

A君の家では、まずお母さんが「与えるアドバイス」から「一緒に目標を考える」スタンスに切り替えました。“毎日夜に素振りを30回”、“今月は必ずコーチにも朝の挨拶をする”といった、ほんの些細な目標設定からで十分でした。

この時、特に大事にしたのは「結果よりプロセスを褒める」こと。A君が練習から帰宅したら、「今日は疲れたかな?続いた自分を偉いね」とポンと背中を押し、口出しはしません。1か月もするとA君は自分から「今日はフライを一つも落とさなかった」と報告し、自信を深めていったのです。

私は現場でも家庭でも、達成した小さなアクションを大げさなくらい一緒に喜ぶことが、親子の距離を良い意味で縮めると信じています。

やる気が続かない悩み――Bさん親子の再スタート

「親が関わらないといけない」と気づいた瞬間

Bさんのお子さんは入団当初、野球が大好きでした。しかし数か月後には「練習に行きたくない」と言い出すようになりました。共働きの家庭で、送り迎えや付き添いが難しかったため、最初は「本人が楽しければそれでいい」と考えていたそうです。
ところが、ある日Bさんが休みにグラウンドへ顔を出すと、子どもが驚くほど嬉しそうな表情を見せました。その瞬間、「親が見てくれていることが子どもにとって大きな支えになる」と痛感したそうです。

親が変われば子どもも変わる――親子で再スタート

それ以降、Bさんは積極的に練習を見学し、休日にはキャッチボールを楽しむようになりました。親が変われば子どもも変わる――その言葉通り、子どもは再び練習に前向きになり、親子で目標を立てて達成を喜び合う日々が始まりました。以前よりも強い絆が生まれたのです。

補欠生活をどう乗り越えるか――C君のケース

「補欠でも腐らずに前向きに」

C君は3年間の大半を補欠として過ごしました。努力はしているのに主力との差が大きく、両親も「辞めた方がいいのか」と悩みました。私も彼の姿に胸を打たれたことを覚えています。大切だったのは「補欠の時間をどう意味づけるか」でした。

私は「ベンチから声を出すことも立派な役割」「チームを支える経験も成長につながる」と繰り返し伝えました。

親子で「今できること」に目を向ける

C君は誰よりも大きな声で応援し、ベンチリーダーを任されるようになり、自分に誇りを持つようになりました。やがて代打で起用された試合でヒットを放ち、家族にとって忘れられない瞬間となりました。両親も「補欠の時間があったからこそ、人を支える喜びを知った」と語ってくれました。

親子で「今できること」に目を向ける姿勢が、確かな成長を生んだのです。

「教えすぎ」から「見守る」へ――Dさん家族の気づき

親が口を出しすぎてしまう悩み

Dさんの父親は元野球部で、つい熱が入りすぎて細かい指示を繰り返していました。子どもは自分で考える余地を失い、母親とともに「どうすればいいか」と相談に来ました。私は「答えを与えるのではなく、ヒントだけ渡す方法」を提案しました。

翌日から「どこが難しかった?」「今日は何に気付けた?」と問いかけるスタイルに変えると、子どもは自分なりに工夫して練習するようになりました。親子の会話も増え、子どもは自信を持ってプレーできるようになったのです。

「教えすぎず、見守る」ことの力を改めて感じた出来事でした。

親子の距離感――「見守る」ことの力

ガミガミ言わず、そっと見守る母親の力

名門校の監督からも「母親は後ろから見守るくらいが良い」とアドバイスを受けたことがあります。私自身も、親御さんには「細かく口出しせず、努力や習慣をそっと見守ってあげてください」と伝えています。

子どもは親の視線や態度を敏感に感じ取ります。日記をつけて見守る、やる気がない日は「今日はしないんだね」とだけ伝える――そんな距離感が、子どもに自立心を育てます。

失敗も経験のうち――自分で責任を取る力

忘れ物や遅刻、試合での失敗。親がすぐに手助けしてしまうケースは多いですが、子どもが自分で解決する経験を積むことが大切です。私自身も、子どもがグラブを忘れて泣いたとき、貸し出し用グラブで我慢させました。

家では怒らず「次から持ち物表を作ろう」とだけ伝えたところ、子どもは自分でチェックリストを作り、驚くほど成長しました。失敗を任せる勇気が、親子の信頼関係を深めるのです。

親子で成長するために必要なこと

素直さとチャレンジ精神を育てる

• 素直さ:まずは監督やコーチの話を聞く姿勢を持つ

• チャレンジ精神:小さな挑戦を積み重ねる

• 見守る力:口出しせず、努力をそっと支える

親が学ぶ姿勢を見せることで、子どもも素直にチャレンジできるようになります。親子で悩み、乗り越える過程そのものが、最大の成長ストーリーなのです。

まとめ――相談現場で見えた親子の成長ストーリー

21年間、少年野球の現場で保護者や子どもたちと関わり続けてきて感じるのは、「一緒に悩み、前を向いて進む時間こそ親子の最大の財産」だということです。試合に出られない苦しさも、補欠で泣いた夜も、家族や仲間と支え合って次の一歩を踏み出す姿に、私は何度も心を打たれました。

「失敗してもいい、ささいな一歩でもいい」。その気持ちを大切に、これからも現場で親子とともに歩み続けたいと思います。どんなご家庭にも、必ず「親子だからこそ得られる成長ストーリー」があると信じています。

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